数字は、見せた分だけ見えるようになる ― 社員が売上しか見ていない理由

2026/11/03 経営

「うちの社員は、売上のことしか言わない」

社長からよく聞く言葉です。

けれど、会議で配られる資料を見せてもらうと、売上のグラフしか載っていないことがあります。

社員が見ているのは、見せられている数字だけです。見せていない数字について考えろと言っても、無理があります。

この記事では、社員にどこまでの数字を見せると何が変わるのかを、段階に分けて整理します。

見える範囲で、その人の役割が決まる

DMM創業者の亀山敬司会長が、動画の中で「給与の上げ方」をこう説明していました。

売上が見える人。粗利が見える人。販管費を引いて営業利益が見える人。金利まで入れて経常利益が見える人。税金まで見て純利益が見える人。

そして、「最後まで見ているのが社長」だと。

さらに、見える範囲で、その人のポジションが決まると続きます。

見えている数字任せられる役割
売上営業のエース
売上と原価(粗利)部長
自分にかかっている経費まで引いた利益役員
家賃・資金繰り・入金のタイミング社長の右腕
税引後の利益社長

役職が上がったから数字が見えるのではありません。数字が見えるようになった人に、役割がついていくという順番です。

これは、社員の昇進の話であると同時に、社長が何を任せられるかの話でもあります。

売上しか見えないと、何が起きるか

いちばん分かりやすいのが、値引きです。

同じ商品を売った2人を比べます。

  • Aさん:値引きせずに、100万円で売った
  • Bさん:10%引いて、110万円で売った

売上だけで評価すれば、Bさんの勝ちです。

では、粗利で見るとどうなるか。原価率を70%として計算します。

AさんBさん
売上100万円110万円
原価70万円85.6万円
粗利30万円24.4万円

Bさんの売上はAさんより10%多いのに、粗利は約2割少なくなります。

値引きは、売上からではなく粗利から引かれるからです。売価を10%下げると、粗利は3分の1近く消えます。

この計算ができないまま「とにかく売ってこい」と言えば、現場は値引きで数字を作ります。売上は伸びて、利益は減ります。

そして社長は、決算のときに「こんなに売ったのに、なぜ残っていないのか」と言うことになります。

なぜ、社長は数字を見せないのか

見せたほうがいいと分かっていても、見せない理由があります。実際によく聞くのは、次の3つです。

1. 利益を知られると、給料を上げろと言われる

いちばん多い心配です。

ただ、実際に数字を見せた会社では、逆のことが起きます。利益100万円に対して税金がいくらかかるか、人をひとり採ると年にいくら出ていくか。これを自分で計算してもらうと、「思ったより残らない」という感想が出てきます。

知らないから、無限にあると思われます。

2. 数字が外に漏れる

これは、見せる範囲を決めれば解決します。全社の決算書をそのまま配る必要はありません。

部門の売上と粗利、自分の部署で使っている経費。この2つだけでも、判断は変わります。

3. 説明する時間がない

いちばん現実的な理由です。

ただ、説明しないことで増えている時間もあります。値引きの可否、経費の可否、見積りの判断。社員が判断できない分は、すべて社長に戻ってきます。

どこまで見せるか

一度に全部を開く必要はありません。段階があります。

第1段階:自分の部署の売上と粗利

まずここからです。売上だけでなく、原価を引いたあとの数字を見せます。

月次で、前年と比べた表を1枚。これだけで、値引きの話ができるようになります。

第2段階:自分の部署で使っているお金

人件費、車両費、交際費、外注費。自分たちが使っている経費を、金額で見せます。

「営業車1台で、年にいくらかかっているか」を知っている社員は、ほとんどいません。ガソリン、保険、整備、高速代。1台あたり年100万円を超えることもあります。

第3段階:部署の利益

売上から原価と経費を引いた、部署としての利益です。

ここまで見えると、「増やす」と「減らす」のどちらが早いかを、自分で考えられるようになります。

第4段階:会社全体の利益と、お金の流れ

利益が出ていても、現金がない。入金は3か月後で、支払いは翌月。この感覚は、見せないと伝わりません。

社長の右腕に育てたいなら、ここまで開く必要があります。

見せ方で、伝わり方が変わる

数字を見せるときに、ひとつ注意があります。

社長が説明すると、「要するに節約しろということですね」と受け取られます。

これは経験上、ほぼ必ず起きます。説明する側の意図と、受け取る側の解釈がずれるからです。

有効なのは、計算してもらうことです。

  • 利益100万円に、税金はいくらかかるか
  • 営業車1台に、1年でいくらかかるか
  • 10%値引きすると、粗利はどれだけ減るか
  • 年収300万円の人を採用すると、1年目にいくらかかるか

チームで予想を出して、答え合わせをする。自分で出した数字は、言われた数字とは重みが違います。

研修の形にしなくても、月次の会議で1つずつ出していくだけでも効果があります。

教える会社と、教えない会社

亀山会長は、こうも話していました。

「会社がそういう教育をしてくれないことは、すごく多い」

社員の側から見れば、自分で勉強して上司を驚かせたほうが早い、という話です。

社長の側から見ると、別の意味になります。

教えていない会社では、社員は売上の話しかできません。 そして、売上の話しかできない社員が何人いても、社長の仕事は減りません。

逆に、1段上の数字が見えるようになった社員からは、社長の仕事が1つずつ減っていきます。

誰に何を任せられるかは、役職で決まっているようでいて、実はその人に何を見せてきたかで決まっています。

おわりに

社員が売上しか見ていないとしたら、それは能力の問題ではないかもしれません。

見えないのではなく、見せていない。

まずは、来月の会議で配る資料に、粗利の行を1行足すところからで構いません。それだけで、出てくる意見が変わります。

数字は、見せた分だけ見えるようになります。そして、見えるようになった分だけ、社長の時間が戻ってきます。

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※本記事は2026年10月時点の情報にもとづいています。

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