数字は、見せた分だけ見えるようになる ― 社員が売上しか見ていない理由
「うちの社員は、売上のことしか言わない」
社長からよく聞く言葉です。
けれど、会議で配られる資料を見せてもらうと、売上のグラフしか載っていないことがあります。
社員が見ているのは、見せられている数字だけです。見せていない数字について考えろと言っても、無理があります。
この記事では、社員にどこまでの数字を見せると何が変わるのかを、段階に分けて整理します。
見える範囲で、その人の役割が決まる
DMM創業者の亀山敬司会長が、動画の中で「給与の上げ方」をこう説明していました。
売上が見える人。粗利が見える人。販管費を引いて営業利益が見える人。金利まで入れて経常利益が見える人。税金まで見て純利益が見える人。
そして、「最後まで見ているのが社長」だと。
さらに、見える範囲で、その人のポジションが決まると続きます。
| 見えている数字 | 任せられる役割 |
|---|---|
| 売上 | 営業のエース |
| 売上と原価(粗利) | 部長 |
| 自分にかかっている経費まで引いた利益 | 役員 |
| 家賃・資金繰り・入金のタイミング | 社長の右腕 |
| 税引後の利益 | 社長 |
役職が上がったから数字が見えるのではありません。数字が見えるようになった人に、役割がついていくという順番です。
これは、社員の昇進の話であると同時に、社長が何を任せられるかの話でもあります。
売上しか見えないと、何が起きるか
いちばん分かりやすいのが、値引きです。
同じ商品を売った2人を比べます。
- Aさん:値引きせずに、100万円で売った
- Bさん:10%引いて、110万円で売った
売上だけで評価すれば、Bさんの勝ちです。
では、粗利で見るとどうなるか。原価率を70%として計算します。
| Aさん | Bさん | |
|---|---|---|
| 売上 | 100万円 | 110万円 |
| 原価 | 70万円 | 85.6万円 |
| 粗利 | 30万円 | 24.4万円 |
Bさんの売上はAさんより10%多いのに、粗利は約2割少なくなります。
値引きは、売上からではなく粗利から引かれるからです。売価を10%下げると、粗利は3分の1近く消えます。
この計算ができないまま「とにかく売ってこい」と言えば、現場は値引きで数字を作ります。売上は伸びて、利益は減ります。
そして社長は、決算のときに「こんなに売ったのに、なぜ残っていないのか」と言うことになります。
なぜ、社長は数字を見せないのか
見せたほうがいいと分かっていても、見せない理由があります。実際によく聞くのは、次の3つです。
1. 利益を知られると、給料を上げろと言われる
いちばん多い心配です。
ただ、実際に数字を見せた会社では、逆のことが起きます。利益100万円に対して税金がいくらかかるか、人をひとり採ると年にいくら出ていくか。これを自分で計算してもらうと、「思ったより残らない」という感想が出てきます。
知らないから、無限にあると思われます。
2. 数字が外に漏れる
これは、見せる範囲を決めれば解決します。全社の決算書をそのまま配る必要はありません。
部門の売上と粗利、自分の部署で使っている経費。この2つだけでも、判断は変わります。
3. 説明する時間がない
いちばん現実的な理由です。
ただ、説明しないことで増えている時間もあります。値引きの可否、経費の可否、見積りの判断。社員が判断できない分は、すべて社長に戻ってきます。
どこまで見せるか
一度に全部を開く必要はありません。段階があります。
第1段階:自分の部署の売上と粗利
まずここからです。売上だけでなく、原価を引いたあとの数字を見せます。
月次で、前年と比べた表を1枚。これだけで、値引きの話ができるようになります。
第2段階:自分の部署で使っているお金
人件費、車両費、交際費、外注費。自分たちが使っている経費を、金額で見せます。
「営業車1台で、年にいくらかかっているか」を知っている社員は、ほとんどいません。ガソリン、保険、整備、高速代。1台あたり年100万円を超えることもあります。
第3段階:部署の利益
売上から原価と経費を引いた、部署としての利益です。
ここまで見えると、「増やす」と「減らす」のどちらが早いかを、自分で考えられるようになります。
第4段階:会社全体の利益と、お金の流れ
利益が出ていても、現金がない。入金は3か月後で、支払いは翌月。この感覚は、見せないと伝わりません。
社長の右腕に育てたいなら、ここまで開く必要があります。
見せ方で、伝わり方が変わる
数字を見せるときに、ひとつ注意があります。
社長が説明すると、「要するに節約しろということですね」と受け取られます。
これは経験上、ほぼ必ず起きます。説明する側の意図と、受け取る側の解釈がずれるからです。
有効なのは、計算してもらうことです。
- 利益100万円に、税金はいくらかかるか
- 営業車1台に、1年でいくらかかるか
- 10%値引きすると、粗利はどれだけ減るか
- 年収300万円の人を採用すると、1年目にいくらかかるか
チームで予想を出して、答え合わせをする。自分で出した数字は、言われた数字とは重みが違います。
研修の形にしなくても、月次の会議で1つずつ出していくだけでも効果があります。
教える会社と、教えない会社
亀山会長は、こうも話していました。
「会社がそういう教育をしてくれないことは、すごく多い」
社員の側から見れば、自分で勉強して上司を驚かせたほうが早い、という話です。
社長の側から見ると、別の意味になります。
教えていない会社では、社員は売上の話しかできません。 そして、売上の話しかできない社員が何人いても、社長の仕事は減りません。
逆に、1段上の数字が見えるようになった社員からは、社長の仕事が1つずつ減っていきます。
誰に何を任せられるかは、役職で決まっているようでいて、実はその人に何を見せてきたかで決まっています。
おわりに
社員が売上しか見ていないとしたら、それは能力の問題ではないかもしれません。
見えないのではなく、見せていない。
まずは、来月の会議で配る資料に、粗利の行を1行足すところからで構いません。それだけで、出てくる意見が変わります。
数字は、見せた分だけ見えるようになります。そして、見えるようになった分だけ、社長の時間が戻ってきます。
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※本記事は2026年10月時点の情報にもとづいています。
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