「社員は、何番目ですか?」—採用難・定着難を超える視点

2026/08/14 経営

もし入社初日、社長から最初に「頑張るな」と言われたら、どう感じるでしょうか。
普通は逆です。「期待しているぞ、頑張れ」と背中を押されるものだと思います。

先日の勉強会で、ある経営者がこんな話をしていました。
会社に入ったばかりの頃、当時の社長からかけられた最初の言葉が、
「頑張るな。頑張りすぎるな。もっと素を出せ」だったというのです。

しかも、「どうしたらいいですか」と尋ねるたびに、
返ってくるのは「君はどうしたいと思う?」という問い返し。
答えを、なかなか教えてもらえなかったといいます。

最初は、しんどい。けれど、そのやり取りを繰り返すうちに、
“指示待ち”だった自分が、いつのまにか”自分で考える社員”へと変わっていったと。

これは結局、社長が社員を「信頼していた」ということなのだと思います。
「この人は、自分で考えられる」。そう信じているからこそ、
あえて答えを渡さず、考える余白を残す。
指示で人を動かすのではなく、信頼で人を育てる。そういうマネジメントです。

「大事にする順番」を、決めていますか

その”信頼”を、経営の順番そのもので示している会社があります。
坂本光司氏の著書『日本でいちばん大切にしたい会社』で知られる、企業が大切にすべき順番です。

一番目が、社員とその家族。二番目が、外注先・仕入れ先。
三番目に、ようやくお客様。そして四番目が地域社会、五番目が株主。

お客様よりも、社員が先。取引先も、お客様より先。
初めて見ると、多くの経営者が驚きます。「お客様第一」を掲げてきた常識と、逆に見えるからです。
けれど、この順番を本気で貫いている会社ほど、長く、強く続いているのです。

社員の7割が障がい者。それでも続く町工場

たとえば、神奈川県川崎市の日本理化学工業。
学校でおなじみのダストレスチョークをつくる、小さな町工場です。

この会社は、働く社員のおよそ7割が、知的障がいのある人たちです。
効率だけを考えれば、「うちでは難しい」と断ることもできたはずです。
けれど同社は、”働く幸せ”を信じて、雇い続けることを選びました。

人は、働くことで人の役に立ち、必要とされ、愛される。
その幸せを、社員一人ひとりに届けようとしたのです。その取り組みは、いまや60年以上に及びます。

「社員を一番にしたら、会社が持たないのではないか」。
そう心配する声もあるでしょう。けれど、事実は逆を示しています。

社員を守り抜いて、48年連続増収増益

長野県の伊那食品工業。「かんてんぱぱ」で知られる寒天メーカーです。
同社は、社員を守り、決してリストラをしない”年輪経営”を掲げてきました。
木が一年に一輪ずつ、着実に年輪を重ねるように、急がず、無理をせず、少しずつ確実に成長する。
という考え方です。

その結果が、48年連続の増収増益。社員を大切にすることと、
会社が伸び続けることは、決して矛盾しない。

むしろ、社員を大切にする会社こそが、いちばん長く、強く続いていく。
伊那食品工業は、それを長い年月をかけて証明してみせました。

答えは、たぶんここにある

「答えを教えない」ことも、「順番を一番」にすることも、根っこは同じです。
社員を、いつでも取り替えのきく”コマ”や、削るべき”コスト”としてではなく、
「信頼できるパートナー」として見ているかどうか。その一点に、すべてがつながっています。

採用が難しい。せっかく採っても、続かない。
多くの会社が抱えるこの悩みの答えは、給与や制度の小手先の工夫よりも先に、
この”まなざし”の中にあるのかもしれません。

人は、信頼してくれる場所に集まり、信頼してくれる場所に留まるからです。

あなたの会社では、社員は何番目でしょうか。

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