給料は、いくらまで上げられるのか ― 賃上げの余力は計算できる

「給料を上げたい。でも、いくらまで上げられるかが言えない」
経営計画を作る2日間の合宿で、社長が最後にそう振り返りました。
賃上げの話になると、多くの社長が同じところで止まります。上げたい気持ちはある。けれど、いくらなら上げられるのかを計算したことがない。
だから社員には「頑張ろう」「生産性を上げよう」としか言えません。その先が言えないまま、毎年春が来ます。
「いくら上げられるか」は、計算できる
結論から言うと、賃上げの余力は計算できます。順番があるだけです。
多くの会社は、人件費を最初に考えます。「今年はいくら上げようか」から入る。これだと、残りがいくらになるか分かりません。
逆から置いていきます。
| 順番 | 決めること | 考え方 |
|---|---|---|
| 1 | 必要な利益 | 借入の返済、設備投資、内部留保に、いくら要るか |
| 2 | 必要な粗利 | 利益+固定費(人件費を除く) |
| 3 | 必要な売上 | 粗利 ÷ 粗利率。単価と客数に分解する |
| 4 | 人件費に回せる額 | 粗利 −(人件費以外の固定費)− 必要な利益 |
人件費は、最後に出てくる数字です。先に決めるものではありません。
借入の返済から逆算する
見落とされやすいのが1番です。
借入の元本返済は、経費になりません。税引後の利益から返します。
年間の返済が1,200万円、減価償却が400万円なら、税引後で800万円の利益が要ります。法人税等を40%とすると、税引前で約1,330万円。
ここを飛ばして人件費を決めると、資金繰りが詰まります。
やってみると、何が見えるか
合宿では、5年分の計画に数字を1つずつ置いていきました。
この売上にするなら、単価はいくらで、お客様は何人必要か。その人数を集めるのに、広告費はいくら要るのか。毎年いくら残っていないと、借入は返せないのか。
置き終わって見えたのは、こういうことでした。
人件費は、一気には上げられない
がっかりする結論に見えるかもしれません。けれど、ここが分かることに意味があります。
社長の言葉です。
大雑把にやらずに細かくやっていけば、絵に描いた餅みたいにならずに進んだ
実のある計画ができた、という感じがしています
社員に伝えられる形にする
計算ができたら、社員に伝える形に直します。伝えるのは、金額ではなく条件です。
- 今期の売上が◯◯万円を超えたら、賞与の原資が◯◯万円増える
- 客単価が300円上がると、年間で◯◯万円の粗利になる
- 来店数が1日2人増えると、年間で◯◯万円の売上になる
数字を出すと「上がらない理由の説明」になると心配される方がいます。実際は逆です。
条件が分かると、社員は行動を選べます。 「頑張ろう」では、何をどう頑張るかが決まりません。
伝える順番としては、「いくら上げる」より先に「どうなれば上げられる」です。約束ではなく、条件として話すと、社長も言いやすくなります。
計画は、やらないことを決める道具
合宿の最後に、社長にもう1つ聞きました。「では、何を手放しますか」
返ってきたのは、こうでした。
思いついたことに、手を出すのをやめます
優先するのは顧客と商品だと決めても、組織に問題が起きるとそちらに手をつけてしまう。そのたびに時間を取られていた、という話でした。
だから、優先順位に入らないことはやらない。
もう1つ、手放すものがありました。苦手なデザインです。ポップを1枚作るのに、ものすごく時間をかけていたそうです。それはAIにやらせる、と。
計画は、やることを増やす道具ではありません。やらないことを決める道具です。
やることだけ増える計画は、実行されずに終わります。
まず出してみる3つの数字
いきなり5年分は大変です。今期の分だけでも、次の3つを出してみてください。
- 年間の借入返済額(元本)
- 人件費以外の固定費(家賃、リース、広告、水道光熱、保険など)
- 粗利率(売上総利益 ÷ 売上)
この3つがあれば、「いくら売れば、人件費にいくら回せるか」はその場で計算できます。決算書と返済予定表があれば足ります。
おわりに
賃上げは、勇気の問題ではありません。計算の問題です。
計算してみて「今年は上げられない」となることもあります。それでも、上げられない理由を数字で説明できる社長と、何も言えない社長では、社員の受け取り方がまったく違います。
まずは、返済額と固定費を書き出すところから始めてください。
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※本記事は2026年10月時点の経営相談の現場からまとめたものです。
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