「全部できます」は、選ばれない― 俳優の「代表作」に学ぶ、実力があっても埋もれない中核商品のつくり方
先日、若手の役者さんが出演する番組を見ていて、ふと手が止まりました。
その中に、ひとり目を引く役者さんがいました。演技がうまい。華もある。歌もできる。モデルもできる。
「この人は、絶対に売れるだろう」
番組の中では、頭ひとつ抜けて見えました。
けれど、その後まで花が咲くかどうかは、また別の話です。
逆に、番組ではそこまで目立たなかった人が、大きな作品に出演し、
どんどん売れていくこともあります。
この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
今回は、この番組をきっかけに思い出した私自身の失敗をもとに、
「なぜ何でもできる人や会社が埋もれてしまうのか」「選ばれるために何を決めればいいのか」をお伝えします。
1. 違いは、能力の数ではない
できることが多いのは、間違いなく強みです。
演技も、歌も、モデルもできる役者さんは、それだけ多くの努力を重ねてきたはずです。
それでも、できることの多さが、そのまま売れることにはつながりません。
売れていく役者さんには、「この人といえば、この作品」と言える代表作があります。
観る人の記憶に残り、次に声をかける人が思い出すのは、並んだ能力の一覧ではなく、ひとつの作品です。
これは、会社や専門家でも同じだと感じています。
2. 私が持っていった「五刀流」の提案
番組を見ながら、私は自分の失敗を思い出し、ハッとしました。
以前、IPO準備中の会社からご相談を受けたことがあります。
そのとき私が持っていった提案は、いわば「五刀流」でした。
- 経営の刀
- 財務の刀
- 税務の刀
- 人事の刀
- 海外の刀
これも、これも、全部できます。そう並べて、お見せしました。
自分では、いい提案をしているつもりでした。
ところが、返ってきた言葉はこうです。
「うちはそんなに必要ない。今欲しいのは、財務のマネジメント強化だけ」
こんなにたくさんはいらない、ということでした。
お客様が求めていたのは、ひとつの課題の解決でした。
それなのに私は、自分にできることを並べることに一生懸命になっていた。
完全に、独りよがりの提案でした。
3. 「何でもできる」は、なぜ選ばれないのか
振り返ってみると、「何でもできる」が選ばれない理由は、お客様の側に立つとよく分かります。
① お客様は「課題」を持って探している
お客様は「何でもできる人」を探しているわけではありません。
「今困っている、この課題を解決してくれる人」を探しています。
先ほどの会社にとっては、それが財務のマネジメント強化でした。
② 並べられるほど、判断できなくなる
選択肢が多いと、お客様は「自分に必要なのはどれなのか」を考えなければなりません。
その手間が、決断を遠ざけてしまいます。
③ 「結局、何の人なの?」で終わってしまう
できることを全部伝えると、かえって印象に残りません。
誰かに紹介しようと思っても、「あの人は何でもできる人です」では、紹介する側も言葉に困ってしまいます。
実力が足りないから選ばれないのではありません。
実力が、お客様に伝わる形になっていないのです。
4. 代表作が、次の仕事を連れてくる
俳優でいう「代表作」は、ビジネスでいえば「中核商品」にあたると考えています。
- この人といえば、この作品
- この会社といえば、この商品
- この専門家といえば、この課題
ここが決まると、次の仕事が次の仕事を連れてくるようになります。
お客様が思い出しやすく、紹介もしやすくなるからです。
反対に、ここが決まらないままだと、どれだけ実力があっても埋もれてしまいます。
この失敗から、私は自分の中核商品を「脱ブラックボックス経営」に寄せています。
社長の頭の中にしかない経営を、数字と言葉と仕組みに落とし込み、
誰が見ても分かる「会社の設計図」にする。
刀は、5本もいりません。1本を、代表作にする。
そう決めてから、自分が何の専門家なのかを、以前よりずっと伝えやすくなりました。
5. 貴社の「代表作」を見つける3つの問い
中核商品は、新しくつくるものとは限りません。
すでに貴社の中にあるものを、見つけて磨くことから始められます。
まずは、次の3つを問いかけてみてください。
① お客様から、いちばん「助かった」と言われたのは何ですか?
売上の大きさではなく、お客様の反応から探してみてください。
感謝の言葉が集まっているところに、代表作の種があります。
② お客様は、貴社のことを何と言って紹介してくれていますか?
紹介してくださったお客様の言葉を、思い出してみてください。
自分たちが思っている強みと、お客様が感じている強みは、違っていることがあります。
③ 「全部できます」の中で、ひとつだけ残すなら何ですか?
いま提案書や会社案内に並んでいるものを見直し、ひとつだけ残すとしたら何かを考えてみてください。
それが、貴社がいちばん力を注ぐべき中核商品の候補です。
おわりに
できることが多いのは、悪いことではありません。ただ、それを全部並べても、お客様には選ばれません。
この人といえば、この作品。この会社といえば、この商品。
もし貴社に「これがうちの代表作です」と言えるものがまだないなら、まずはひとつに絞って、磨いていくことから始めてみてください。
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