値下げのいちばんの問題は、利益が減ることではありません― 社長が現場から離れられなくなる、その入口

2026/09/08 経営

石原明さんの『絶対儲かる「値上げ」のしくみ、教えます』を読みました。

読み進めながら、途中で手が止まった箇所がありました。
値下げの最大の問題は、利益が減ることではない。
経営者が、現場から離れられなくなることだ、という指摘です。

数字で見ると、はっきりします


本書に、分かりやすい図がありました。

売価100円、原価70円の商品があるとします。利益は30円です。

これを80円に値下げすると、利益は10円。
同じ利益を確保するには、三倍の数を売らなければなりません。
しかも三倍売るということは、販売にあたる人員も、抱える在庫も、寄せられるクレームも、
それに比例して増えていくということです。

逆に130円に値上げすれば、利益は60円になります。
販売数が半分になっても、これまでと同じ利益が残る。人手にも在庫にも余裕が生まれます。

ここまでは、多くの経営者の方が頭では分かっておられます。
私も、分かっているつもりでいました。

値下げは「時間」を奪います

問題は、その先です。

三倍の数を売り続ける会社で、社長は何をしているでしょうか。
朝から晩まで、現場に立っています。人が足りないから自分が入る。
クレームが出たから自分が出る。数を追いかけている限り、この状態から抜けられません。

そして、会社の未来をつくる仕事をする時間が、静かに消えていきます。

本書では、経営者が本来やるべき仕事を「会社の未来を作る仕事」と表現していました。
三年後、五年後に会社を支える事業や商品を考え、人脈をつくり、仕組みを整える。
同じビジネスモデルが何十年も持った時代は終わり、
いまは同じ商品・同じサービスのまま固定化してはいられない時代です。
それなのに、その仕事に手をつける時間だけが、いちばん先に削られていく。

私がふだんご相談を受けている「属人化」と、まったく同じ構造だと感じました。
社長が現場から離れられないから、数字を整える時間も、判断基準を言葉にする時間も、
後継者に渡す時間も取れない。そうしているうちに、社長の頭の中がブラックボックスになっていきます。

入口は、値段だったのです。

値上げとは、価値に見合った金額で売ること

誤解のないように申し上げますが、本書が勧めているのは、便乗して高くすることではありません。

デフレのなかで、値引きや安売りによって本来の価値よりはるかに低い値段で売っている状態を、
本来の値段に戻す。それが「値上げ」の本当の意図だと書かれています。

安く売ることは、品質やサービスの悪さの裏返しでもある。
逆に、他社より高く売れているのなら、それは品質やサービスの良さが認められている証拠でもある。
値段には、未来に向かって社員を雇い、教育し、設備を保つための費用が含まれていなければならない。
そこを削ってしまえば、いずれ品質そのものが落ちていきます。

そして、値下げの影響は自社だけにとどまりません。
下請けが締めつけられ、質が落ち、評判を落とし、結果として倒産や職人不足を招く。
産業構造そのものを壊していく、という指摘には考えさせられました。

本書には、検査料を十倍にした試験系の検査会社や、
値引きをせずに品質を守った運送会社の例が挙げられていました。
印象に残ったのは、天明元年(1781年)創業の大阪・淀屋橋の老舗、昆布の「神宗」です。
一日に売る数をあらかじめ決めていて、営業時間内でもその数に達すれば、頼まれても売らない。
品質を守るために、あえて数を追わない。媚びない姿勢そのものが、ブランドになっていました。

実際に、利益が二割上がった会社があります

先日お会いした社長さんに、思い当たることがありました。

はっきりした理由もないまま、いつも値引きをしておられた方です。
「まあ、これくらいは」と、毎回。

その値引きをやめ、値上げも意識するようにしました。
商品も、お客様も、変えていません。変えたのは値段だけです。
結果として、利益が二割上がりました。

そして、いちばん大きかったのは、社長の時間が空いたことでした。

最初は「値段」だけを上げる

では、どう進めればよいのか。本書の答えは、拍子抜けするほどシンプルでした。

最初は、値段だけを上げる。サービスを加えたり、商品を良くしたりは、当初は極力しない。

値上げというと、多くの経営者の方が「その分、何かを足さなければ」と考えます。
私もそう思っていました。
けれども、値上げして今までより高く売ることと、
商品・サービスの価値に見合った金額で売ることはイコールである、と本書は言い切ります。
いま安すぎるものを、本来の値段に戻すだけなのだから、余計なものを加える必要はない。

加えるべきは、説明の仕方です。同じ商品を値段だけ上げるのですから、
自社の商品やサービスの価値をどう伝えるか。そこにこそ、手間をかける。

安く売らなければ買ってくれないお客様は、値段だけを見て買っている層です。
そこは、会社を長く支えてくれる顧客にはなりにくい。高くても買ってくれる方こそが、
提供する価値を見て買ってくださっている方だ、という一節も、静かに刺さりました。

貴社の値段は、その価値に見合っていますか

一度、静かに考えてみてください。

いまの価格は、いつ、どういう根拠で決めたものでしょうか。
そこに、社員を育て、設備を保ち、未来をつくるための費用は含まれているでしょうか。
そして、理由のない値引きが、習慣として残っていないでしょうか。

もし即答できなかったとしても、それは弱点ではありません。これから手を打てる伸びしろです。

値段を見直すことは、利益を増やすためだけの話ではなく、社長が現場から一歩下がり、
会社の未来を考える時間を取り戻すための、いちばん現実的な一手だと思っています。

私の経営相談では、こうした「価格と利益の構造」も含めて、貴社の現状を一緒に整理していきます。
同じ悩みも、言葉にして話すだけで、驚くほど頭がすっきりするものです。
気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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