医業赤字74.6%時代─構造的赤字からの脱却戦略

2026/06/11 開業医・医療法人

「真面目に医療を提供しているのに、なぜ赤字なのか」
これが多くの病院経営者の率直な実感ではないでしょうか。

四病院団体協議会の最新調査では、
2024年度に医業赤字となった病院は74.6%、経常赤字は65.6%にのぼりました。

もはや個別病院の経営努力だけで解決できる問題ではなく、業界全体を覆う構造的な課題です。

本コラムでは、なぜここまで赤字が広がったのかを整理し、
構造的赤字から脱却するための実務的なアプローチを考えます。

1. 4分の3の病院が赤字──衝撃のデータ

四病協が四病院団体加盟病院を対象に実施した2024年度の経営状況調査では、
医業赤字病院割合は前年から拡大し74.6%に達しました。

経常赤字も63.6%から65.6%に増加し、悪化に歯止めがかかっていません。

とりわけ深刻なのが大学病院で、2024年度の経常赤字は全体で508億円。
前年(168億円)から1年で約3倍に拡大しました。

公立病院も例外ではなく、PwCコンサルティングの分析によれば、
400床以上の大規模公立病院では2023年度から2024年度にかけて経常損失が2倍以上に拡大しています。

従来は「規模が大きいほど黒字を確保しやすい」とされていましたが、
いまや大規模病院ほど赤字リスクが高い時代に入りました。

2. なぜ赤字構造から抜け出せないのか

人件費比率58%の現実

一般病院の費用構造を見ると、人件費比率は平均で58%に達しています。
医療の質維持と労働環境改善のための処遇改善は不可欠ですが、
診療報酬は公定価格であるため、人件費上昇を価格に転嫁することができません。

さらに、委託先の人件費上昇により委託費も増加しており、
固定費が二重三重に圧迫を受けている構図です。

物価高騰と消費税損税

2022年以降の物価高騰は、医薬品費・診療材料費・光熱費・食材費のすべてに波及しました。
大学病院では2022年度比で医薬品費が14.4%増、診療材料費が14.1%増と報告されており、
収益が横ばいでも費用だけが膨らむ構造になっています。

加えて、医療機関には「消費税損税」の問題があります。

仕入れにかかる消費税は支払う一方、診療報酬は非課税のため転嫁できません。

四病協の調査では、大規模急性期病院の消費税負担に対する診療報酬補填割合は68.4%にとどまり、
1病院あたり2億円近い損税が発生している事例もあります。

患者数の構造的減少

厚生労働省の調査では、1日平均在院患者数は2019年度から減少基調が続いており、
2025年9月時点の月末病床利用率は全体で76.9%にとどまっています。

高齢化で患者の絶対数は増えているものの、平均在院日数の短縮により延べ入院日数は減少。
「収益=単価×患者数」の両方が下押しされる状況です。

3. 構造的赤字から脱却する3つのアプローチ

赤字の構造を踏まえると、対応策も「個別努力」では限界があり、
構造に切り込むアプローチが必要です。

アプローチ①:算定漏れと加算取得の徹底

意外に多いのが、算定要件を満たしているにもかかわらず届出ができていない加算の存在です。
2026年度改定では「急性期総合体制加算」「物価対応料」「電子的診療情報連携体制整備加算」
など病院に手厚い新設項目が並びます。

レセプト分析を定期的に行い、自院で算定可能な項目を漏れなく取得する仕組みを整えることは、
即効性のある収益改善策です。診療部門と医事部門の連携、
そしてベンチマーク(同規模・同機能病院との比較)の活用が鍵となります。

アプローチ②:コスト管理の高度化

人件費・委託費・材料費の3大コストについて、
月次でのモニタリングと部門別の利益管理が欠かせません。

「まちおか」式に各部署が自部署の利益計画まで立てるレベルまで踏み込むことで、
コスト意識が現場に浸透します。

省エネ機器導入やDX推進に対する補助金は、
2025年度補正予算や「医療施設等経営強化緊急支援事業」など複数の枠組みが用意されています。

これらを最大限活用し、自己負担を抑えながら設備更新を進める発想が求められます。

アプローチ③:機能の見直しと「選択と集中」

すべての診療科・すべての病床機能を維持し続けることが、本当に自院にとって最適なのか。
地域の医療需要、自院の強み、競合状況を踏まえ、
機能の絞り込みやダウンサイジングを冷静に検討する時期に来ています。

たとえば、稼働率の低い病棟を地域包括医療病棟へ転換する、
不採算の診療科を他院と再編する、在宅医療部門を強化する、
といった戦略的な機能転換です。

「開設以来の医療を続ける王道」を進むのか、
「供給不十分な領域に参入する隙間戦略」に切り替えるのか、独立独歩か連携か統合か。
経営判断としての「選択と集中」が、これまで以上に問われています。

まとめ─「赤字は経営の問題」と捉え直す

医業赤字74.6%という数字は、もはや個別病院の自助努力で解決できる規模ではありません。
一方で、同じ環境下でも黒字を確保している病院があるのも事実です。

両者の違いは、「赤字は自院の経営判断と仕組みで動かせる」と捉えているか、
「外部環境のせいで仕方ない」と諦めているかの違いに大きく依存します。

2026年度改定の追い風を活かし、コスト構造に切り込み、自院の機能を見直す。

このサイクルを回せる病院だけが、2040年に向けた厳しい時代を生き残ることになるでしょう。

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