AIに任せられない本当の理由は、渡す材料がないことです

議事録は「記録」ではなく、会社の資産になります。
「うちもAIを入れたいのですが、何から手をつければいいでしょうか」
経営相談で、最近いちばん多くいただくご質問です。
ほとんどの方が、ツールの名前や導入費用の話から入られます。
けれども私は、たいていその手前でお聞きすることにしています。
「先週の会議の内容は、いま、どこかに残っていますか」
ここで言葉に詰まる会社が、驚くほど多いのです。
そして、ここが詰まっている限り、どれほど優秀なAIを入れても、期待した働きはしてくれません。
理由は単純で、AIに渡す材料が、社内に一つも溜まっていないからです。
「先に芯を食っていた」のは、議事録でした
北海道帯広の、ファームノートという会社があります。
酪農家向けの牛群管理システムを開発している企業で、
代表の小林晋也氏は、AIの活用でいま国内でも指折りの実践者として知られています。
小林氏がご自身で公開されている記事によれば、
同社では役割別に六つのプラグイン(計十七本のスキル)でAIの経営基盤を組み直し、
二日間で百六十四ファイル・約一万行のコードを書き換えたといいます。
GitHub、Google ドライブ、Salesforce、freee、そして自社製品のデータまでをつなぎ、
製品の販売状況、顧客動向、市場動向、競合動向、クレームの増減、
製品開発の要望までを自動で抽出する仕組みを動かしておられます。
数字だけを見ると、うちには関係のない世界の話に聞こえるかもしれません。
しかし私が本当に注目したのは、その土台にあるものでした。
同社では、営業現場や各部門の会議がすべて文字起こしされているということです。
小林氏ご自身も、最初から正しかったのは議事録だった、という趣旨のことを述べておられます。
議事録を残す目的は、書く手間を省くことではありません。
議事録そのものが、会社の文脈(コンテキスト)になるからです。
考えてみれば当然のことです。経営会議で何が議題に上がり、
営業が現場で何を言われ、どの案件がどこで止まっているのか。
それらは全部、社長の頭の中と、社員一人ひとりの記憶の中にだけあります。
文字になっていないものは、AIどころか、隣の席の社員にも渡せません。
消えていく言葉が、いちばん惜しい
先ほどの会社では、営業担当者が日報を書きません。その日の活動を口頭で録音して送ると、
営業管理システムに登録される仕組みになっています。
それが議事録と組み合わさり、毎週のレポートになる。
そこには、たとえばこんな一行が上がってきます。
「三年分の決算書を前にしても、儲かる軸が見えないという悩みが共有された」
これは、従来なら報告書に一行も残らなかった類の言葉です。
上司に伝わることもなく、その日の車内の会話で終わっていた。
けれども経営から見れば、こうした生の声こそが、次の商品や次の一手の材料になります。
数字は、起きたことの結果しか教えてくれません。
なぜそうなったのかは、たいてい現場の言葉の側に落ちています。
その言葉を拾えるかどうかで、経営の解像度はまるで変わります。
私自身も、今年から全部残すようにしました
偉そうに書いておりますが、私も昨年までは同じでした。
今年から、社内の会議はすべて録音し、終わったらすぐ文字起こしをして議事録にしています。
やってみて、いちばん早く効果が出たのは、意外にも分析ではありませんでした。
やるべきことが、はっきり出てくることです。
「あれは結局、誰がやるんだったか」がなくなりました。
会議が、そのまま行動につながる。それだけでも、続ける理由としては十分でした。
お客様との経営相談も同じです。お聞きした内容を議事録に残し、そこから課題を整理して、
インフォグラフィックにまとめ、A4一枚でお渡ししています。
バラバラに語られていた悩みが一枚の紙の上に並ぶと、それぞれがつながって見えてきます。
「うちの問題は、これとこれが同じ根っこだったのか」と、社長ご自身が気づかれる瞬間があります。
ご提案は、そこから始まります。
そして、溜まれば溜まるほど効いてきます。データが残っていれば、
あとからいくらでも角度を変えて分析も整理もできる。
逆に、残っていないものは、どんな道具を使っても分析できません。
「作業のAI化」で止まると、二〜三割で終わります
先ほどの小林氏は、こうも語っておられます。
自分の作業をAIに置き換えるだけなら、生産性の向上はせいぜい二〜三割にとどまる、と。
それでは利益が二倍、三倍になることはありません。
変わるのは、AIが仕事をすることを前提に、人の動き方そのものを組み直したときだけです。
以前のコラム(「AIを毎日使っているのに、なぜ会社は速くならないのか」)でも書きましたが、
AIの使い方が社員個人の頭の中に閉じている限り、それは新しい属人化にしかなりません。
今回申し上げたいのは、その一つ手前の話です。
使い方を仕組みにする以前に、そもそもAIに読ませる自社のデータがあるかどうか。
ここが空っぽのままでは、AIはどこにでもある一般論しか返してきません。
導入がうまくいかなかった会社の多くは、ツールの選定を間違えたのではなく、
渡す材料を持っていなかったのだと思います。
今日の会議を、録音するところから
ですので、AIのご相談をいただいたとき、私は最初に次の三つをおすすめしています。
一、まず録音して、文字にする。 対象は経営会議と、お客様との商談で十分です。
完璧な議事録に整える必要はありません。文字になっていることが大事です。
二、置き場所を一つに決める。 個人のパソコンに散らばっていては、無いのと同じです。
フォルダを一つ決めて、全部そこに入れる。それだけで、あとから読ませられる形になります。
三、週に一度、まとめて眺める。 一週間分を並べると、同じ言葉が何度も出てきていることに気づきます。
それが、いま会社で本当に起きていることです。
特別な投資は要りません。順番としても、見える化のいちばん最初に置ける、いちばん小さな一歩です。
貴社の先週の会議は、いま、どこかに残っているでしょうか。
もし「たしか誰かがメモを取っていたはず」という状態でしたら、それは弱点ではなく、
これから最も伸びる余地があるということです。
私の経営相談では、貴社のどこがブラックボックスになっているのかを、一緒に整理してまいります。
お話しいただくだけでも、驚くほど頭がすっきりするものです。どうぞお気軽にご相談ください。
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