行列の絶えない麻辣湯─「美味しいから並ぶ」の、その先にある話

2026/07/14 経営

高知に上陸した麻辣湯(マーラータン)の店。
前を通るたびに、店先には行列ができています。

正直に言えば、最初は「並んでいるのだから美味しいのだろう」という程度の見方でした。
ところが実際に店内に入り、その仕組みを眺めたとき、私の関心は味そのものよりも、
背後にある”経営の設計”へと移っていきました。行列の正体は、味だけではなかったのです。

数字で見ると、静かに強い

まず、数字を並べてみます。席数はおよそ30、そこに常時15〜20人が座っています。
料金は100グラム400円、客単価は1,200円を超えます。昼と夜を稼働して1日およそ100人。
仮に月25日営業とすれば、月商はおよそ300万円、年商にすると3,600万円規模になります。

飲食業の粗利率をざっくり6割で見積もっても、月におよそ180万円の粗利が残る計算です。
そして、これを回しているのは、たった4人の家族経営。派手さはありません。
けれど、数字は静かに強い。この”静けさ”こそ、今回いちばん注目したいポイントです。

利益を生んでいるのは「足し算」ではない

多くの人は、繁盛店を見ると「何か特別なことを足しているはずだ」と考えます。
珍しいメニュー、凝った内装、手厚い接客。しかしこの店が利益を生んでいる理由は、その逆でした。
徹底して「やることを減らしている」のです。具体的には、3つの引き算が効いています。

① 選ばせない
スープの辛さは3段階から選ぶだけ。
メニューを膨らませて迷わせるのではなく、選択肢をあえて絞っています。
選択肢が多いほど人は迷い、決断を後回しにします。
絞ることは、実は客への親切であると同時に、店の回転を上げる仕掛けでもあります。

② 作らせない
食材はお客さん自身がピックアップする方式。
この一手で、注文を聞く・仕込む・盛り付けるという工程の一部を客側に委ねています。
結果として、4人という最小人数でも店が回る。人件費が軽くなり、利益率を押し上げます。

③ 捨てさせない
冷凍食材が多く、廃棄ロスがほとんど出ません。
飲食業の利益を静かに削っていく最大の敵は、実は「捨てるコスト」です。
そこを構造的に断っているため、原価が安定します。

なぜ「引き算」はこれほど強いのか

引き算が効くのは、コストが下がるからだけではありません。
オペレーションが軽いほど、働く人の負担が減り、ミスが減り、教育も簡単になります。
家族4人でも回せるということは、裏を返せば「誰がやっても同じ品質で出せる」設計になっているということ。
属人性が低いビジネスは、疲弊しにくく、続けやすいのです。

さらに、選択肢を絞ることは客の満足を下げるどころか、むしろ体験をシンプルにします。
「迷わず、すぐ、美味しいものにありつける」という手軽さそのものが、
行列を生む価値になっている。引き算は、コストと体験の両面で効いているわけです。

ただし、引き算は万能ではない

公平のために付け加えれば、引き算がいつでも正解というわけではありません。
絞りすぎれば飽きられ、リピートが鈍る局面もあります。
この店も、立地や商品の物珍しさといった追い風があってこそ成立している面はあるでしょう。
大切なのは「何でも削る」ことではなく、利益と体験を損なわずに削れるものだけを、見極めて削ること。
引き算は、無計画な節約とはまったく別物です。

あなたのビジネスで、最初に削れるものは何か

この話は、飲食業だけのものではありません。
メニューを増やすより看板の一品に絞る。営業日を週6から週4に減らす。
すべて自分でやっていた作業を、お客さんや仕組みに委ねる。
どの業種にも、「足すのをやめた瞬間に、かえって伸びるもの」が眠っています。

売上を伸ばそうとするとき、私たちは反射的に「何を足すか」を考えます。
けれど本当に強い商売は、しばしばその逆側にあります。
増やす前に、一度立ち止まって問うてみてください。
あなたのビジネスで、いちばん最初に削れそうなものは、何でしょうか。

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