時給1086円。あと二か月で、貴社の原価は上がります― 高知県最低賃金63円引き上げから逆算する、経営計画
先日の高知新聞に、こんな記事が載っていました。
高知地方最低賃金審議会が、2026年度の高知県最低賃金を63円引き上げ、時給1086円とするよう答申した。
引き上げ額は国の中央値を上回り、引き上げ率は6.16%。全国の中では宮崎に次いで、下から二番目の額です。
新しい最低賃金の発効日は、10月29日。
見落とせないのは、この日付です。前年度は使用者側の要望を受け、発効が12月1日まで後ろ倒しになりました。
今回も同じ要望は出されましたが、通っていません。例年通り、10月の発効に戻っています。
高知労働局の推計では、いま時給1086円に届いていない労働者は、県内に3万1179人。
決して他人事の数字ではありません。
この流れは、来年も再来年も続きます
一度きりの引き上げであれば、なんとか耐えられるかもしれません。
ただ、記事を読む限り、そういう話ではありませんでした。
国は「一般労働者の賃金中央値の6割」という水準を目標に置いています。
記事によれば、高知県の中央値は現在1125円。しかも中央値そのものが、毎年上がっていく前提です。
労働者側は「今後二年程度で中央値の6割に到達し、さらに他県との賃金格差を是正していく必要がある」
と主張していました。
つまり、これから毎年、10月に人件費が上がる。そういう時代に入ったということです。
答申は、決して穏やかに決まったわけではありませんでした。
労使の隔たりは埋まらず、最終的に公益委員が示した63円の提案を、労働者側は受け入れたものの、
使用者側は「経済力に乏しい高知の最低賃金が他県より突出するのは、事業者の理解が得られない」として、
合意しなかったと報じられています。
現場の苦しさは、痛いほど分かります。それでも、決まった以上、10月29日は来ます。
上がるのは、人件費だけではありません
ここで、もう一段先まで考えておきたいことがあります。
上がるのは、自社が支払う給与だけではありません。
仕入先も、外注先も、運送も、同じように人件費が上がります。
当然、その分は請求額に乗ってきます。材料費も、電気代も、同じ方向を向いています。
入ってくるコストは、全方位から上がる。
それなのに、売価だけが去年と同じ、という会社が少なくありません。
では、その差額は、どこから出ているのでしょうか。
社長ご自身の役員報酬でしょうか。先送りにした設備更新の分でしょうか。
あるいは、「まあ、これくらいは」という理由のない値引きの、さらに上に乗っている分でしょうか。
どれも、長くは続きません。
賃上げの原資は、値段の中にしかありません
賃上げの原資は、どこから生まれるのか。突き詰めれば、答えは二つしかありません。
売価を上げるか、一人あたりの生産性を上げるか。この二つだけです。
そして、売価を1割上げれば、その分はほぼそのまま利益として残ります。
同じ1割を売上増で稼ごうとすれば、人も時間も広告費もかかります。
値段は、社長が今日決断すれば、今日から効く数少ない打ち手です。
もっとも、いきなり価格表だけを書き換えても、うまくいきません。
誰に売るのか、その方は何に価値を感じておられるのか、それをどう説明するのか。
ここが整理されていないまま値段だけを動かすと、
社長ご自身が説明できなくなり、結局もとの相場に戻ります。
順番があるのです。
数字を入れると、答えが勝手に出てきます
私が高知で開いている二日間の経営合宿で、いちばん時間を使うのが、まさにこの作業です。
売上を、単価×数量に割る。五年後の役職別の年収を置く。
人数をかけて、人件費を出す。それを賄うために必要な粗利益を、逆算する。
たいていの場合、ここで足りなくなります。
だから、また売上に戻る。単価を動かしてみる。数量を動かしてみる。
事業ごとに、どこにいくら残っているのかを見る。
この行ったり来たりを、二日間かけて繰り返します。
すると、不思議なことが起こります。
社長が「どれをやめるか」を悩まなくなるのです。
数字を入れ切ると、残るものが勝手に決まる。社長は、それに腹落ちするだけになります。
ある会社は温めていた事業を外し、ある会社は伸ばす事業を絞り、ある会社は新規事業をやめました。
三者三様でしたが、結論はどれも同じ方向でした。減っていたのです。
決断が先ではありません。数字が先です。
秋田から参加してくださった社長も、こうおっしゃっていました。
「頭の中がすっきり整理されて、やるべきことが明確になった」。
ご自身で経営計画を作ってこられた方でしたが、数字が事業の中身とつながっていなかった。
そこがつながった瞬間に、計画が「信じられるもの」に変わりました。
10月29日から逆算して、いま決めておくこと
発効まで、あと二か月です。
この二か月で決めておくべきなのは、「値上げをするかどうか」ではないと思っています。
人件費が上がることは、もう決まっているからです。
決めるべきは、次の三つです。
- どの商品・どのサービスの値段を、いくらにするのか
主力全部ではなく、まずは一つで構いません。 - その値段の根拠を、社長の言葉でどう説明するのか。
「原価が上がったので」だけでは、お客様は納得しにくいものです。 - 値上げしない分は、どこで賄うのか。
生産性なのか、割に合わない仕事から手を引くのか。
この三つに答えが出ていれば、10月29日は、ただの日付になります。
答えが出ていないと、その日から毎月、じわじわと効いてきます。
貴社の価格表は、最後にいつ書き換えましたか
一度、静かに振り返ってみてください。
いまの価格は、いつ、どういう根拠で決めたものでしょうか。
その中に、社員に払い、設備を保ち、次の人を育てるための費用は含まれているでしょうか。
そして、理由のない値引きが、習慣として残っていないでしょうか。
すぐに答えが出なかったとしても、それは弱点ではありません。
これから手を打てる伸びしろです。多くの会社で、値決めを体系的に考える機会が、
これまでなかったというだけのことです。
もっとも、すべての会社に二日間の合宿が必要なわけではありません。
詰まっている場所は、会社によって違います。値段なのか、生産性なのか、そもそもの計画の作り方なのか。
まずはそこを見分けるところからで、十分だと思います。
私の経営相談では、決算書の数字と事業の中身を突き合わせながら、
「賃上げの原資をどこから出すのか」を一緒に整理していきます。
同じ悩みも、言葉にして話すだけで、驚くほど頭がすっきりするものです。
気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
▼ご相談フォームはこちら(スマホで簡単入力)▼▼

※ご相談内容に「経営改革ロードマップ」とご記入いただけるとスムーズです


