その融資は、面談が始まる前に決まっています

銀行が本当に見ているのは、過去の数字ではない
先日、ある創業案件の資金調達をお手伝いしました。
金融機関のご担当者に事務所までお越しいただき、社長にも同席していただいて、
三者で打ち合わせをした日のことです。
こういう場は、たいてい長くなります。
「決算書を見せてください」「事業計画書はありますか」「自己資金はいくらですか」。
一つずつ質問され、こちらが一つずつ答える。
そうやって少しずつ、相手の頭の中に事業の輪郭ができあがっていきます。
ところが、その日は違いました。
事業そのものの説明を、ほとんどしないまま、いちばん大事な論点の話から始まったのです。
理由は、はっきりしています。打ち合わせの前に、一冊の提案書をお渡ししてあったからです。
「貸してください」ではなく「返せます」を渡す
その提案書は、12ページありました。
何を売るのか。なぜ、その場所なのか。その通りを、休日に何人が歩いているのか。
同じ業態は、よその街でいくら売っているのか。原価率はどれくらいか。
そして、いくら返せるのか――その計算式まで。
大事なのは、これらがすべて、現場を歩いて確かめた事実だという点です。
人通りは公的な調査データで裏を取り、同業他店の損益を参考に、
工事費は正式な見積書の金額をそのまま載せました。
願望や意気込みは、一行も入れていません。
金融機関のご担当者は、それを読んだうえで来られます。
だから、説明を聞く時間が要らない。最初から「ここは、どうなっていますか」と、
いちばん確認したい一点に入っていける。
融資は、面談の場で口説き落とすものではありません。
面談が始まる前に、相手の手元でおおよその判断がついている。
面談は、その判断を確かめる場です。
だからこそ、「面談の前に何を渡してあるか」で、話の速さも、通りやすさも変わってしまうのです。
銀行が見ているのは、過去ではなく「返せる根拠」
正直に申し上げると、私自身、かつては「決算書と試算表を持っていけば伝わる」と思っていました。
数字は嘘をつかない。きちんと利益が出ていれば、分かってもらえるはずだ、と。
しかし、それは違いました。
金融機関が見ているのは、過去の数字そのものではありません。
「返せる根拠が、どこにあるか」です。過去の数字は、その根拠のうちの一つにすぎません。
まして創業案件なら、過去の数字そのものが存在しないのです。
では、根拠はどこにあるのか。多くの場合、社長の頭の中にあります。
なぜ、この場所を選んだのか。なぜ、勝てると確信したのか。何を確かめてから、決めたのか。
競合を、どこまで実際に見て回ったのか。
社長にとっては当たり前すぎて、わざわざ口には出しません。
しかし、そこにこそ判断の根拠が詰まっています。
それを引き出して、第三者が読んで分かる形に落とす。これが、私たちの仕事だと考えています。
「返せる」を数字で言えるようにする
とはいえ、思いや経緯を並べただけでは、根拠とは呼べません。最後は、必ず数字に落とします。
そのときに使う、いちばん分かりやすい物差しが「返済余力」です。
返済余力 = 返済に回せるお金 ÷ 一年間の返済額(元金)
そして、返済に回せるお金は、こう計算します。
返済に回せるお金 = 税引後の利益 + 減価償却費
減価償却費を足し戻すのは、これが「費用として引かれているが、実際にはお金が出ていかない」費用だからです。帳簿の上では利益を減らしていますが、現金は会社に残っています。だから、返済に回せます。
この返済余力が、一般には1.2倍前後あれば安全圏と見られます。
逆に言えば、1倍を切る計画は、その時点で「返せない計画」だということです。
どれほど熱意を込めて語っても、この一行が1倍を割っていれば、話は前に進みません。
自社の返済余力を、社長ご自身が言えるかどうか。これは、思っている以上に大きな差になります。
一本の計画ではなく、三つの見立てを持っていく
もう一つ、実務で効くことがあります。計画を一本だけ持っていかない、ということです。
計画書に書かれた数字は、たいてい「うまくいった場合」の姿です。
作る側は本気でも、読む側は、そこを割り引いて読みます。当然のことです。
ですから、私は「うまくいかなかった場合」も、あわせて数字にしてお渡しします。
売上が計画の6割にとどまったら、どうなるか。そのとき、返済余力は何倍まで落ちるのか。
それでも返せるのか。
ここまで書いてあると、読み手の受け取り方が変わります。
「都合のいい数字を並べてきた人」ではなく、「悪い場合まで考えてある人」になるからです。
悲観的な見立てを自分から出すことは、弱みの露呈ではありません。むしろ、計画の信頼度を上げます。
数字は、社長の「やりたい」を通すためにある
数字は、社長を止めるためにあるのではありません。社長の「やりたい」を、周りに通すためにあります。
事業への確信は、たいてい社長の中で先にできあがっています。
足りないのは、その確信を、他人が判断できる形に翻訳したものです。
そこが埋まらないまま面談に臨むから、熱意は伝わったのに話が進まない、ということが起きるのです。
逆に、根拠がきちんと紙になっていれば、面談は驚くほど短く済みます。
そして、はじめての取引が一度きちんと成立すれば、二号店のとき、次の設備投資のときの相談が、
まるで違うものになります。
資金調達とは、その一回だけの手続きではなく、金融機関との関係を築いていく作業でもあるのです。
貴社は、銀行に「何を」渡していますか
一度、静かに問い直してみてください。
直近の融資のとき、貴社は決算書と申込書のほかに、何を渡したでしょうか。
自社の返済余力が何倍あるか、いま即答できるでしょうか。
そして、計画が下振れしたときの姿を、数字で示したことがあるでしょうか。
すぐに答えが出なかったとしても、それは経営者としての力不足ではありません。
事業の中身と、金融機関が読みたい形とが、まだつながっていないというだけのことです。
つなぎ方さえ分かれば、資金調達は「お願いする作業」から「説明する作業」に変わります。
私の経営相談では、こうした「銀行に渡す資料のつくり方」も含めて、貴社の現状を一緒に整理していきます。
同じ悩みも、言葉にして話すだけで、驚くほど頭がすっきりするものです。
気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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