新たな地域医療構想と「きれいな撤退戦略」─2040年に向けた機能分化・再編の現実解

2026/07/02 開業医・医療法人

2025年問題を超え、いよいよ医療提供体制の議論は2040年問題へと焦点が移っています。

厚生労働省が進める「新たな地域医療構想」は、2040年頃の医療提供体制ビジョンを描くものです。
人口減少と高齢化のフェーズ転換が進むなか、
すべての病院が現在の機能・規模のまま生き残ることはできません。

「いかに撤退するか」「いかに役割を組み替えるか」が経営判断の中心テーマになっています。

本コラムでは、地域医療構想の方向性と、自院の進路を考える視点を整理します。

1. 2040年に向けた医療提供体制の再設計

人口動態の地域差を直視する

PwCの分析によれば、2040年に向けた医療体制の変化は地域ごとに大きく異なります。

  • 大都市型:2025年までは高齢者増加、生産年齢人口は維持。
         2040年には高齢化が落ち着き人口減少フェーズへ。
  • 地方都市型:生産年齢人口の減少と高齢化が同時進行。
          2040年には大病院を含む多くの医療機関で稼働率低下が予測される。
  • 過疎地域型:すでに人口減少が進行。
          これまで統合・再編、診療所化、閉院を余儀なくされてきた。

注目すべきは、地方都市型でも過疎地域型と同様の状況が今後広がるという点です。
人口20万人を超える自治体でも高齢化が落ち着き、人口減少フェーズに突入します。
「自院は大規模だから大丈夫」という前提は通用しなくなります。

病床利用率の低下と「延べ入院日数」の減少

高齢化が進んでいるのに、なぜ病床利用率は下がっているのか。
背景には平均在院日数の短縮があります。
一般病床の利用率は1996年の83%から2022年の69%へ、療養病床は92%から85%へ低下。
延べ入院日数は2001年の5.12日から2023年には4.40日まで減少しました。

入院する人数自体は増えていても、滞在期間が短縮されているため、
全体としての入院需要は縮小しています。

2040年に向けて人口減少が加われば、この傾向はさらに加速します。

2. 急性期拠点機能は人口20〜30万人に1か所へ

新たな地域医療構想の議論では、「医療機関機能」の明確化が中核テーマとなっています。
とくに注目すべきは、急性期拠点機能の集約方針です。

地域医療構想・医療計画検討会では、急性期拠点機能を「人口20〜30万人ごとに1か所
へ集約する方向性が示されました。

救急搬送・全身麻酔手術の実績や体制、
さらに「病院の築年数」までも勘案して設定される見込みです。

この方針が意味するのは、「すべての中小病院が急性期を担い続けることはできない」という現実です。

同一二次医療圏に複数の急性期病院がある地域では、
再編・統合・機能転換のいずれかが避けられません。

2026年度改定で新設された「急性期総合体制加算」も、
こうした集約化を後押しする仕組みとして位置づけられています。

総合性と集積性の両方を備えた病院に手厚く配分される設計は、
「地域の中で誰が拠点機能を担うのか」を診療報酬の側面から明確化するものといえます。

3. 自院の進路を決める4つの選択肢

地域の医療提供体制が大きく動くなか、各病院は次のいずれかの選択を迫られます。

選択肢①:機能を絞り込み、強みを尖らせる

急性期拠点機能を狙うのか、回復期・包括期に軸足を移すのか、
慢性期・療養に特化するのか、在宅医療を強化するのか

機能を絞り込み、その領域での競争力を高める道です。

地域における自院のポジショニングを明確にし、限られた経営資源を集中投下します。

選択肢②:地域連携でネットワークの一員になる

独立独歩で全機能を抱え込むのではなく、地域の他院との連携を深め、
ネットワークの中で役割を分担する道です。

急性期病院から回復期病院への転院、在宅医療との接続、開業医との連携
これらをデジタルツールも活用しながら具体化することで、
自院単独では実現できない機能を地域全体で担います。

選択肢③:再編・統合を主体的に進める

近隣病院との合併・吸収、診療科の集約化、
複数法人の連携体制構築など、経営統合を選ぶ道です。

大規模公立病院でも経常損失が1年で2倍に拡大する状況にあり、
PwCには「病院単独での経営改善の他、周辺病院との再編を含めて病院の在り方自体を検討したい」
という相談が急増しています。

統合・再編は時間がかかるプロセスです。

地域に必要な医療を残すために、ダウンサイジングも含めた
きれいな撤退戦略」を主体的に立てる必要があります。

選択肢④:診療所化・閉院も含めた縮小

需要が縮小する地域で、規模を維持し続けることが経営の足かせとなる場合もあります。
無床診療所への転換、診療科の縮小、最終的には閉院──これらも経営判断としてタブー視せず、
地域住民の医療アクセスを最後まで守る視点から検討する必要があります。
中小規模公立病院では、病床削減や一部休床、無床診療所への転換が全国で報じられています。

まとめ─「協議の場」を活用し、主体的に未来を描く

新たな地域医療構想では、「協議の場」が地域医療の未来を決める重要な舞台となります。
ここで自院の役割を提起し、ステークホルダーと調整できるかどうかが、
進路選択の自由度を左右します。

「成り行きで縮小に追い込まれる」のと、「主体的に機能を組み替えて生き残る」のとでは、
最終的な結果が大きく異なります。

重要なのは、自院の理事会・経営会議で「2040年に向けた進路」を真剣に議論する場を持つこと

そして、地域の人口動態データ、医療需要予測、
競合状況を踏まえた合理的な経営判断を下すことです。

診療報酬改定に合わせた小手先の対応では、もはや病院経営は立ち行きません。

長期的な視野で自院の存在意義を再定義し、地域とともに新しい医療の姿を描く。
それが、2040年を見据えた病院経営者に求められる最大の仕事です。

▼▼ご相談フォームはこちら(スマホで簡単入力)▼▼

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: banner_entry.png

※ご相談内容に「病院経営」とご記入いただけるとスムーズです。